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東京見聞録:浮世絵づくり                        

           木版画の技術を見学 /東京

 江戸庶民の文化の精華となった美術品は浮世絵をおいて他にない。人物や風景の特徴をとらえ、色彩豊かに表現する木版画だ。だが、明治以降の近代化で浮世絵が忘れ去られ、木版画の技術も廃れていった。逆にモネやゴッホといった海外の画家に影響を与え、日本の誇るべき芸術作品として見直されている。この技術を受け継ぐ活動に取り組む「アダチ伝統木版画技術保存財団」(新宿区下落合3)が開いた実演会を見学した。【木村健二】

 ◇漫画やアニメの原点

 摺(す)り師の仲田昇さん(72)が作務衣姿で作業台に座った。この道に進んで50年以上になる。黙々と版木に絵の具を塗り始めた。会場のショールームに緊張感が張り詰める。実演会に参加した23人が台を囲む。その視線が、仲田さんが動かす手先に集まった。

 今回の作品は歌川広重の「月に雁(かり)」。広重と言えば、「東海道五十三次」や「名所江戸百景」などの風景画がよく知られているが、「月に雁」は花鳥画の名作だ。中短冊(縦約38センチ、横約13センチ)といわれるサイズで、一般的な大きさの大錦に比べて横が半分の長さになる。

 仲田さんが右手のバレンに力をこめて和紙を版木にこすりつけると、まず白黒の3羽の雁が浮かび上がった。版木を替えては絵の具を塗って、紙に摺り込む作業を繰り返し、だんだんと色が付いてくる。

 ハイライトはあい色のぼかしで夜空を表現する部分で、摺り師の腕の見せどころだ。手ぬぐいで版木を水にぬらし、特殊なハケで絵の具をのばして微妙な濃淡をつける。ぼかしを入れることにより、単調にも見えた画面が一気に引き締まった。

 「私たちは芸術家ではない。同じことを毎日繰り返す中で個性が出てくる」。同財団の安達以乍牟(いさむ)理事長(78)が、摺り師の技について解説した。版画は商品としては同じものでなければならないが、「同じ見本画を見せて、同じ力の人たちにお願いしても、少ない幅の中で個性が出る」と話す。

 最後に朱色の判を摺って完成。自然と拍手がわいた。10面の版木を使い、摺り始めから約45分で4枚の浮世絵が仕上がった。友人と訪れた東村山市の20代の女性会社員は「浮世絵は1枚の版木で摺られるものだと思っていたので、びっくり。至近距離で作業を見られて貴重な機会になりました」と感心していた。

 ただ、これは実演会向けの工程だ。仲田さんが販売する商品100枚を摺る場合、摺り上がりまでには8日間はかかるという。商品100枚のほかにも、色を整えるために余分に10枚は摺る。摺り師は体力勝負の仕事でもある。

 かつての浮世絵は、絵師、彫り師、摺り師がそれぞれ仕事を請け負い、版元がまとめ役になっていた。しかし、浮世絵市場の衰退に伴って職人が独立して仕事をするのは困難な時代を迎えた。このため、同財団を設立した「アダチ版画研究所」では製版、印刷、版元を一体にした経営を進めてきた。彫り師、摺り師ら計15人の従業員を抱え、伝統的な木版画技術の継承と発展に努めている。

 実演会の開催もその一環だ。同財団が2カ月に1回ほどのペースで開いている。定員30人で予約が必要だが、入場無料というのに心意気を感じる。

 安達理事長が広重の作品に触れながら言った。「日本の絵の良さは、自分の表現したいことは表現するけれども、表現したくないことは表現しない。飛んでいる鳥、周りのものは写実風に描いてあっても、写実ではない。そのつながりが漫画だと思う」。現代日本のソフトパワーを代表する漫画やアニメの原点に浮世絵がある。知識はあったが、職人の技を間近に見てこそ実感できた。そんな歴史も頭に入れて、じっくりと浮世絵を味わっていきたい。

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 ■メモ

 ◇財団が賛助会員募集中

 アダチ版画研究所が制作する浮世絵は、1枚1万3650円(専用額付きで2万6250円。いずれも税込み)からで、手に入れやすい価格になっている。浮世絵ばかりでなく、中島千波氏ら現代の日本画家による版画も手掛けている。また、アダチ伝統木版画技術保存財団では事業を支援する賛助会員を募っている。単年度の会費は2万円を1口に個人が1口以上、法人が5口以上。問い合わせは、同財団事務局(03・3951・1267)へ。

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